幼児教育の研修をしていると、幼児クラスの先生から「小学校に上がるためには座れるようにならないと」「今の様子では就学後が心配」というような言葉を耳にすることが多くあります。
保育園や幼稚園、子ども園などから小学校に上がると、子どもたちの環境は大きく変わりますから、保育者が心配になるのも無理はありません。
その一方で、インクルーシブ教育が広がりつつある近年、ユニークな小学校が全国各地に広がっています。
今日は、福島県の「大熊町立学び舎ゆめの森」に訪問した際のレポートを、ご紹介したいと思います。
1.学び舎ゆめの森とは
2.学びのデザイン
3.保育者が小学校を知る意味
1.学び舎ゆめの森とは

学び舎ゆめの森は、福島県双葉郡大熊町の大川原地区にある、認定こども園と義務教育学校が一体となった教育施設です。0歳から15歳までの子どもたちが共に過ごし、一人ひとりの「好き」や「なぜ?」を大切に、幼児期の遊びから探究へと切れ目なくつながる学びを特長としています。
その背景には、2011年の東日本大震災と福島第一原発の事故があります。全町避難を余儀なくされた大熊町では、避難先の会津若松市で教育活動を続け、2023年に町内での学校教育を再開しました。
町内で再出発した当初は、園児・児童生徒合わせて26名。訪問時に伺ったお話では、現在は140名が在籍し、そのうち約3分の2が移住者とのことでした。震災からの復興を歩む町に、さまざまな背景をもつ子どもたちや家族が集まり、新しい日常をつくっている。その広がりに、学びの場が地域の未来を育む可能性を感じました。
私が訪問した日、子どもたちは宿泊学習に向けた授業に取り組んでいました。そこには、震災後に生まれた子どもたちが、当時の様子や原発事故を伝えるニュース映像を見る姿がありました。自分たちが暮らし、学ぶ町で何が起きたのかを知る時間。子どもたちにとって、この土地の歴史に触れることは、地域とのつながりを新たに育み、未来を切り拓く力になるのではないでしょうか。地域の歩みを次の世代へつなぐことも、この学び舎の大切な役割なのだと感じました。

2.学びのデザイン

ゆめの森では、先生のことを「デザイナー」と呼んでいます。子どもたち一人ひとりの興味や問いに寄り添い、学びが生まれる環境や経験をデザインする。その呼び名には、そんな先生の役割が表れているように感じました。各学年の「学びのデザイン」からも、育みたい力や、大切にしている経験が伝わってきます。
その考え方は、空間にも表れています。ここには、決められた教室や、一人ひとりに割り当てられた自分の机がありません。子どもたちは、自分が落ち着ける場所や、活動に合う場所を見つけて過ごします。認定こども園との交流も自然に生まれる設計で、年齢の異なる子どもたちが日常の中で出会える環境になっています。
ドラムや卓球台、標本など、すべて子どもたちが自由に触れられる環境があることも特徴的でした。

以前の学校で不登校だった子どもの転入もあり、発達に凸凹のあるお子さんも多いと伺いました。けれど、見学中の私は、そのことを特に意識せずに子どもたちの姿を見ていました。短い見学ですべてが分かるわけではありませんが、それぞれが自分なりの居場所や、困ったときの解決方法を持ち、自分に合った過ごし方ができているからなのではないかと感じました。
また、印象的だったのは、毎日宿題が1人ひとり違うということでした。本人と先生で決めるのだとか。これは夏休みの宿題も同じだそうです。一人一人に育ちを考えてみれば、当たり前のことなのかもしれません。
就学後を見つめすぎると一斉指導に目が向きがちな幼児期のかかわりにも、大きなヒントがあるのではと感じます。
一方で、自由をはき違えないようにすることも大切にされています。自分の希望と、周りの人の安心や学びをどう両立するのか。ルールは子どもたちと一緒に考えているそうです。自分の居場所を選べることと、共に過ごす人を大切にすること。その両方を日々の生活の中で学べるよう、子どもと共に環境をつくる。そこにも、先生が「デザイナー」であることの意味を感じました。

3.保育者が小学校を知る意味
「小学校に上がるまでに、座れるようにならないと」「このままで大丈夫だろうか」。そんな心配の背景には、子どもたちが新しい環境で困らずに過ごせるように、という保育者の願いがあると思います。だからこそ、実際に小学校を訪ね、今どのような学びや生活がつくられているのかを知ることには、大きな意味があると感じます。

ゆめの森の取り組みからは、子どもが自分に合う場所を選び、必要な支えを得ながら学ぶ姿が見えてきました。小学校にもさまざまな環境や考え方があると知ることで、就学に向けて大切にしたい経験や、自分たちの保育が目指す方向を、改めて考えられるのではないでしょうか。

同じ敷地内にある認定こども園では、園庭についてのお話が印象に残りました。当初はきれいに芝が敷かれていた園庭の一部を、園長先生があえてはがしたのだそうです。その理由は、芝生に覆われたままでは、子どもたちの土遊びが広がりにくいから。土に触れ、掘ったり、水を流したりしながら、子ども自身が遊びを生み出せるようにする。そのお話からも、子どもの経験を中心に環境を考える姿勢が伝わってきました。
安心できる居場所を持ち、好きなことに夢中になり、困ったときには工夫したり、人に助けを求めたりする。そうした経験を支える環境や関わりは、幼児期からの積み重ねを経て、小学校以降に引き継がれていくのだと思います。
「保育と教育のつなぎ目」を豊かにすることは、かかわる大人の視点に大きく左右されると感じた学校見学でした。

