子どもを取り巻く教育環境の変化~YOSSクラウドシステムへの期待~

ある中学校における月別の不登校生徒数と保健室来室者数が減少していることを示すグラフに目が留まりました。特に、保健室来室者数の減少が際立っていました。

冊子(JSTnews JUNE2026)で紹介された、「YOSS(ヨース)クラウドシステム」を活用した学校の実践報告書「子どもの潜在問題を可視化するシステム開発 学校・家庭・地域ぐるみの支援を早期実現へ」の記事にあるグラフです。校内の情報連携の在り方に留まらず、様々な機関との連携やAIの活用の在り方にも一石を投じた報告書でした。

目次

1.YOSSクラウドシステムとは?

2.YOSSクラウドシステムの効果と予想される課題

3.不登校とAI ~メタバースの活用~

1 YOSSクラウドシステムとは?

この報告書のリード文には、「虐待やいじめ、貧困など、潜在的に問題を抱えているにもかかわらず、周囲に気づかれていないために必要な支援の手が差し伸べられていない子どもは、全体の約30%にも上ると言われている。大阪公立大学イノベーションアカデミー共創研究院の山野則子特任教授を代表者とする研究プロジェクトでは、小中学校に通う全ての子どもを対象としたスクリーニングで、子どもが抱える問題を可視化し、学校、家庭、地域が一体となった適切な支援へとスムーズにつなげる『YOSSクラウドシステム』を開発。社会実装に取り組んでいる。」と書かれていました。

私が所属するNPO法人BOONにおいても、様々な子どもの支援に取り組んでいますが、学校や行政の支援の網から漏れたり、様々な機関どうしの情報連携が不足して適切な支援が受けられていないと感じたりする子どもの存在に気づくことがあります。

日頃からこのような問題意識を持っている時にこの報告書に出会い、これをきっかけとして調べて得た情報から「YOSSクラウドシステム」に対し、大きな期待感が湧き上がってきました。

<YOSS(Youngsters’Obstacles Screening System)クラウドシステム>

このシステムは、小中学生を対象としたスクリーニングシステムの事です。

スクリーニングでは、対象となった全ての子どもの中から、支援が必要だと考えられる子どもを拾い上げ、適切な指導や対応につなげることができます。このスクリーニングを定期的に実施することで虐待、いじめ、不登校、貧困などの表面化しにくい問題に対し早期発見・早期対応を行って重大事案になることを防ぐことが可能になります。開発されたスクリーニングの実施に当たっては、スクリーニング項目の設定や、どの程度該当するかの判断基準の明確化、複数の関係教員等による入力と項目ごとの点数化など、学校全体として共有し活用するための配慮がなされています。

これらのデータに基づいて点数化し潜在的に支援を必要とする子どもを識別・可視化することで、校内でその子どもに関与する教員等を増やし支援の方向性を決めていくことができるのです。

従来行われてきた学校の対応は、例えば担任教師が子ども一人一人のカルテを作成し、それを基に学年の教師やスクールカウンセラー、養護教諭などと意見交換しながら支援方法や内容を決めたり、実際の支援に結び付けたりするものでした。一人ひとりの生徒のカルテを作って記述していくことはかなりの困難を伴いますし、さらにそれを用いて多くの教員が意見交換の機会を持つことも厳しいのが実情です。

そのため、問題の初期段階では担任が一人で悩みながら対応しがちになるのですが、ここで紹介されたシステムは、「担任一人の抱え込み」から「チーム学校の取り組み」への転換を容易にするものとなった感があります。一人の子どもを取り巻く複数の関係者が気づいた子どものデータが、クラウド化されたシステムにより即座に共有され、スクールソーシャルワーカー(SSW)やスクールカウンセラー(SC)、管理職などが必要な時に同じ画面を見ながらチームで対応方針を協議することができる様になりました。

クラウド上にデータを保存することで、当然AIの活用がさらに進むと思います。校内連携の方法や内容、外部の関係機関の紹介や連携の方法などについて、このクラウドシステムは優れた情報提供者となるかもしれません。

2 YOSSクラウドシステムの効果と予想される課題

一方、学校でシステムを導入するにあたっては、幾つかの課題があるように思います。クラウド上にデータを集めるため、子どもの個人情報を入力することに対する一定のルールが重要です。個人名の入力の是非や個人情報の徹底的な安全管理なども気になるところです。さらには、AIの活用に当たって、AIが提供してきた情報を鵜呑みにせず、参考資料として活用し人間が判断することも大切だと思います。AIから提供された情報の活用に関するルール作りが特に大切な視点だと思います。AIは活用方法を間違わなければ、経験の浅い若い教師でもデータに基づいた適切な初期対応が可能になります。

今後は、学校や子どもに関わる諸機関がYOSSクラウドシステムを試行錯誤しながら活用し、活用に関するデータの蓄積と運営上の課題を解決して頂きたいと、冊子を読んで考えたところです。

子どもを取り巻く環境は整備されても、子どもに対応するのは教師を含めた大人です。システムから得られたデータを理解する幅広い知見と、それらを他者の異なる意見と組み合わせて新しい見方や考え方を創る力が、大人にとって必要なのではないかと改めて感じました。

3 不登校とAI ~メタバースの活用~

学校では、文科省のGIGAスクール構想を基に、日本中の子どもたちが情報端末を活用しながら学習できる環境が整ったのは5~6年前です。

現在は、情報端末を基にAIを活用した授業も研究されていますが。不登校対策でもYOSSクラウドシステムと同様にAIの活用が少しずつ進んでいます。例えばメタバースとAIを組み合わせた学習は、不登校の子どもたちにとって、学習に関する大きな選択肢の一つになると考えています。次回は、私が関心のあるメタバースとAIについて取り上げ、不登校の子どもの学習について考えてみたいと思います。