
1 メタバースの活用の現状
2 学校と教師の役割の変化
3 予想される課題
新型コロナ感染症の拡大に伴い、遠隔授業が大学・高等専門学校にWeb会議システムやオンデマンド型学習などの形で急速に普及されてきました。それから数年後の現在、AIやメタバースが私立・公立の諸学校やフリースクール等で活用され始め、教育は大きな変革の時期を迎えていると思います。AIやメタバースは単なるICT機器の普及という枠では収まらず、従来の学校の教科指導法や教師の役割そのものを根底から問い直す大きな契機となりつつあります。かつて、知識・技術や文化の伝達を主たる役割としていた学校は、個別化された学びと社会性の育成を中心とする支援の場へと変容を遂げつつあるように思います。
そこで今回は、私が予想する将来の学校や教師の役割の変化について、AIやメタバースの活用を取り上げながら述べていきたいと思います。
1 メタバースの活用の現状
メタバースは単なる「仮想空間」に留まらず、AIとの融合によって個別最適化された探究学習を加速させるための非常に強力なツールになりつつあります。メタバースがあるからこそ、新しい教育手法が従来の教室で行われている授業よりも効率的に機能する可能性が高まってきました。調べてみると都道府県の公立や私立学校、NPO法人が運営する「こどもの居場所」等で意欲的な取り組みが進行中でした。それらの取り組みを通して感じたことを紹介していきたいと思います。
⑴ AIによる「個別最適化」
メタバース内では、すべての行動がデータ化されるため、AIとの親和性が極めて高い特徴を持っているようです。メタバース空間に配置されたアバターに生成AIを搭載することで、生徒が疑問を感じた瞬間にその場で質問に答え、理解度に合わせたヒントを出すことが可能になっています。2026年現在では、生徒が自分専用の「学習パートナーAI」をメタバース内で構築する試みも始まっています。また、ある子どもが、「どこで立ち止まったか」「どの展示物を長く見ていたか」など、その子の学習履歴をAIが分析し、翌日の学習メニューを自動で作成します。これにより、多忙な先生方に代わって個に寄り添った学習を行うことが可能になりました。
⑵ 探究学習への対応
メタバースは、物理的・コスト的な制約がほとんどないので、例えば宇宙空間で観察したり、深海を探検すること、更には危険な実験やミクロ・マクロの世界で試行錯誤したりする実験など、リアルな場では観察や実験が不可能な課題に探究的に取り組む学習を行えるようになっています。また、課題に対する仮説を立て、それをシミュレーションして検証する授業も可能です。例えば、子どもたちが、自分が住む街をメタバース上に再現し、そこで「ゴミ問題を解決する新しい仕組み」を構築し、試行錯誤しながら結果を得る取り組みが可能となります。様々に条件を変えてシミュレーションを行えば条件に応じて多様な結果を得る事ができます。教科書で学ぶだけでなく、実際に「仮説の設定、試行錯誤、結果、評価と改善」というサイクルを容易に経験できるようになります。更には、特定の分野を深く探究したい時、メタバースなら世界中の専門家や、同じ興味を持つ人たちと、空間的な制約を感じることなく集まる機会を持つことが可能となります。大学の研究室と連携した高度な探究活動も移動時間ゼロで実現できます。私が現職のときに行った中学生と医科大学との連携のような取り組みも、より深めていくことが可能となるでしょう。

2 学校と教師の役割の変化
私たちNPO法人BOONが行なっている学習支援では、ほぼ個別学習が行われています。現在は多くのスタッフが生徒一人ひとりの学習の進度に応じて支援しています。これらの学習支援を、生成AIを搭載したメタバースが行うことは十分に可能なように思えるのです。このような環境下では、支援員の役割は学習プログラムの作成を含めた学習環境の整備や、生徒を精神的に支えていくことが中心になっていくと思います。
この学習支援の姿から未来の学校と教師の役割を整理してみたいと思います。
⑴ 学校の役割
子ども全員が同じペースで学習する従来の知識習得型の学習を行う場から、個別最適な学びとリアルな社会性を育む場所へと学校の役割が変化していく様に思います。
先ほど挙げた新型コロナの感染拡大や不登校の子どもの増加が引き金となって、メタバースによる学習方法の工夫が急速に進んでいます。学校の役割の見直しはすでに始まっていると私は考えています。これからの社会では、学ぶ機会の多様化の流れの中で、学校はAIとメタバースによるバーチャルな空間での個別最適な学習と体験授業を提供するプラットフォームとしての役割を果たしたり、更には、(これが最も重要な学校の役割になると思うのですが)五感を使った実体験や人間関係の学びの場、子ども同士が意見を出し合いまとめていく力を培ったりする場に変化していくと思います。
⑵ 教師の役割
一つめはファシリテーターとしての役割です。
学校の中で子どもたちにAIを使える環境を整えたとしても、それだけでは社会の中で生きるための学力を身に付けることはできません。個別最適な学習を行うためには、教師が子どもの発達段階や個性・特性に応じた学習のプログラムを作成し、子どもの学習の状況に応じて助言するファシリテーターとしての役割を果たすことが今まで以上に重要になると思います。NPO法人BOONの学習支援で、支援員による個別学習を行う時でも、子どもたちが見通しをもって何を学ぶか、どのように学ぶか等についての判断は子どもだけではできません。これからの教師は子どもを見つめ、何がその子どもにとって必要かを判断・評価したり、デジタルリテラシーを基盤にして適切な学習プログラムを作成したりするなど、新しい学習環境をデザインし提供することが最も重要な仕事になると思います。
二つめは、伴走者としての役割です。
子どもが、そのプログラムに沿った学習を行う際の伴走者として、支援を行うことが求められます。AIを用いて学習を進める時、子どもがAIに質問をしなければ回答を得ることはできません。教師は、子どもが質問や課題を持てるように促す力も求められます。今までの教師は回答の導き方を教えてきましたが、これからの教師には、子ども自らがAIの出した回答をヒントにして、疑問を深めたり、課題を見つけ解決したりできるよう、子どもと共に伴走していくことが求められます。
三つめは、非認知能力を培う力をもつことです。
学校の主な役割が社会性の育成やリアルな体験の場へと変化するため、教師には当然、社会性と非認知能力を育む力が求められます。例を挙げると、生徒が協働して課題解決に臨んだり、あるプロジェクトに集団で取り組み成果を得たりする学習などがあります。これらの学習を通してコミュニケーション能力や創造性、粘り強さなどの非認知能力を培う力がこれからの教師には一層求められてくると思います。
教師の多忙さが指摘される中で、これらの力を教師が身に付けていくことは非常に難しいことかもしれません。しかし、ますます変化が激しく予測の難しい社会の中で、子どもたちが、たくましく、しなやかに生き抜く力を育むために、若い先生方の今後の活躍に期待しているところです。
3 予想される課題
義務教育段階からAIやメタバースなどを活用した学習を進めた場合、次のような課題が予想されます。子どもについては、①コミュニケーション能力や社会性の低下、②思考力・創造性の低下、③情報モラルの低下、④プライバシーの侵害など、教師については、⑤デジタルスキル格差とそれに伴う負担増等の多様な課題が生じてくると思います。とりわけ、メタバース上で行う学習の利便性と、現実の教室で行われる子ども同士の対話や体験的な学びのバランスをどのように設計するかが、今後の大きな課題となり、教師の重要な役割になると私は考えています。
これらの課題はあっても、AIやメタバースの活用は進んでいくことが予想されます。
勝手な予想をしてきましたが、将来、子どもたちを取り巻く教育環境はどのように変化していくのか、しっかり見つめながら、私も子どもたちと歩んでいきたいと思っています。
