つくりかけを肯定する保育 ― 自由と手がかりがひらく学び

子どもと向き合っていると、「できた」「できない」という言葉が、無意識に出てしまうことはありませんか。

制作でも生活でも、結果は目に見えやすいので、どうしても注目が集まってしまいます。

効率化ばかりが求められる現代だからこそ、周囲の大人が、「結果」ではなく「過程=つくりかけ」を肯定することは、とても大切な視点だと感じています。

今回は、6月7日まで千葉市美術館のつくりかけラボで開催されている「紙と手のあいだ」という展示のワークショップや環境構成に関わらせていただく中で、私が改めて感じた「つくりかけの魅力」と、「手がかりの重要性」についてお話ししようと思います。

目次

1. 五感に触れる環境が、子どもの感性をひらく
2. アフォーダンスが誘う「手に取りたくなる」素材環境
3. 自由と手がかり、そして“計画された環境”がつくる探究の場
4. つくりかけを肯定するということ

 1. 五感に触れる環境が、子どもの感性をひらく

展示空間の一角には、紙の音を味わうためのコーナーを2か所つくりました。

1か所は、じっくり紙の音を味わう場所。 紙をくしゃっと握る音、こすれる音、破れる音、重なり合う音。 普段は聞き流してしまうような微細な音が、静かな空間で立ち上がり、子どもも大人も思わず耳を澄ませます。

もう一か所は、紙が生み出すリズムに合わせて自分の手を動かして紙の音をつくるセッションのコーナーです。

ヘッドフォンから流れる音楽をデザインしてくれたのは、サウンドクリエーターの竹本仁さん。竹本さんとともに、紙からいろんな音をつくる試行錯誤という楽しい実験を重ねて、思わず手を動かしたくなる面白いサウンドが生まれました。

また大きな紙を扱うワークショップでは、「何に見える?」という小さな問いかけをきっかけに、蛇になり、道になり…と、さまざまな形へと変化させていきました。この「つくりかけの連続」こそが、子どもの創造性をひらく場になっていたように思います。

さらに、光と音を重ね合わせたオープンワークショップでは、その場にあるものを生かして創意工夫を重ねて、参加者全員でお互いのつくりかけからヒントをもらいながら、みんなで空間をつくり、同じ時間を共有する素敵な場となりました。

かかわる人たちによって常に変化していく「つくりかけラボ」の魅力を、改めて感じています。

2. アフォーダンスが誘う「手に取りたくなる」素材環境

展示の素材テーブルは、レッジョ・エミリアのアトリエのように、子どもが思わず手を伸ばしたくなる構成にしました。

この「触れたくなる」という感覚は、偶然ではなく、アフォーダンス(誘発性)を意識した環境構成によって生まれます。 子どもは「触っていいよ」と言われなくても、触れたくなるものには自然と手を伸ばします。また、「丁寧に扱いなさい」と言わなくても、大切に手に取ることを場の空気から察します。

保育の現場でも、アフォーダンスを意識するだけで子どもの動きは大きく変わります。

・紙が立てて置かれていると、「立体をつくりたくなる」
・ちぎれた紙が散らばっていると、「並べて絵にしたくなる」
・光が透ける素材が並んでいると、「かざしてみたくなる」

環境が子どもの行動を導くというのは、指示や声かけとはまったく違う力です。

やってみようかな、という手がかり(きっかけ)を環境の中に置くこと。それを意識するだけで子どもの学びはひらきます。

3. 自由と手がかり、そして“計画された環境”がつくる探究の場

ワークショップで印象的だったのは、自由にしていいと言われるだけでは、子どもは動き出しにくいということです。 真っ白な紙を前にすると、子どもも大人も戸惑います。 そこで「何に見える?」という小さな手がかりが、探究の最初の一歩を生みます。

しかし、手がかりを与えすぎると、「正解探し」に向かってしまいます。 だからこそ、保育者は「自由」「手がかり」「アフォーダンス」の三つのバランスを調整する役割を担っているのです。

大切なのは、 「大人がゴールを決めすぎないことと、いろんな可能性を準備しておくことは矛盾しない」という視点です。

むしろこの二つは、子どもの探究を支えるための両輪です。

ゴールを決めすぎない子どもの創造が広がる
可能性を準備する子どもの体験が豊かになる

これは「自由放任」とはまったく違います。 計画性のある環境構成こそが、子どもの自由を支える土台になるのです。

そしてこの環境づくりの試行錯誤こそが、保育者自身の学びを深めていきます。

環境を計画し、子どもの反応を観察し、また調整する。

この循環が、保育の専門性を育てていきます。

4. つくりかけを肯定するということ

つくりかけラボの展示では、紙がちぎられ、積み重なり、また再生へ戻っていく循環が空間全体に流れていました。 子どもの育ちも同じなのでは、と感じます。

試行錯誤を繰り返してつくりかけを生み、それをヒントに新しいアイデアを生み出していく。

こうした学びの循環には、ゴールがありません。

ゴールを決めすぎないことこそが「ゴール」なのです。

自由と手がかり、そして計画された環境。

この三つがそろうと、子どもの探究は自然と深まります。

「つくりかけ」がひらく学びの環境を、保育者自身が肯定したとき、保育の楽しさもまた、広がっていくように思います。

現在、来年度に向けて、今回ご一緒した竹本さんをはじめ、表現領域の実践者とチームを組み、子どもと保育者が共につくりかけを楽しむためのすくわくプログラムの設計をしています。

私自身も「つくりかけ」を楽しみながら、よりよいプログラム開発に努めたいと思います。