ドキュメンテーションで広がる対話と学び

私が理事を務める一般社団法人カミスクは、1月10日~2月12日まで、川崎市市民ミュージアム主催の企画展「紙くさぐさ」に参加しています。

令和元(2019)年10 月の台風19 号(令和元年東日本台風)により被災し川崎市市民ミュージアムは、現在は旧施設を廃止し、麻生区の仮設施設を拠点として、「IN ACTION」をテーマに、収蔵品のレスキュー活動を行いながら、アウトリーチ形式での展覧会やイベント、出張形式での教育普及事業などを実施しています。

社会資源とつながり、どのように活用し、子どもたちに還元するかは、保育にとって重要なテーマでもあります。

今回は、この展示の取組みとドキュメンテーションの意義について、お話しようと思います。

【アウトリーチ】

手を伸ばす、手を差し伸べるという意味で、支援が必要な人に自ら出向いて働きかけ、情報や支援を届ける活動全般のこと。

目次

1.子どもたちの活動を大人の学びにつなげる
2.ドキュメンテーション制作から展示まで
3.社会資源とつながることで広がる視点

1.子どもたちの活動を大人の学びにつなげる

12月7日にカミスクのアトリエで開催された活動についてお話する前に、カミスクの活動を少し整理してお伝えしたいと思います。

紙をめぐる実践と探究 ― カミスクの活動について ―

私たちは、紙という素材と文化を起点に、つくること・学ぶこと・伝えること・社会とつながることを行き来しながら活動しています。

実践

職人との協働や制作現場での試みを通して、紙の素材や技法、用途の可能性を探っています。

伝統技術と現代の表現や感性が出会う場として、仲間共に実験を楽しみながら、紙の未来の拡大を目指しています。

教育・研究

紙を通して子どもや地域の人々が学ぶ場をつくり、保育園や地域での探求活動、教育の場づくり、教材開発などを行っています。

こうした実践で得られた気づきは整理され、学会や社会に還元されます。

展示・表現

美術館や博物館、図書館などの社会資源と協働し、紙の展示やアートディレクションなど、多岐にわたる表現活動を行っています。

これらの展示は、対話を生み、紙好きの輪を広げる起点となっています。

共創・社会連携

紙は、人と人、人と社会など、コミュニケーションを育み、文化を創造する可能性を秘めています。

就労支援施設や教育機関、地域の活動と協働し、多様な人々とともに学び合い、共創の輪を広げています。

今回は、触れることで生まれる「紙くさぐさ(種々)」と題し、楮から紙をつくる活動「楮よ、紙になれ!」紙の実験「よわいかみつよいかたち」を視覚化したドキュメンテーションを川崎市立高津図書館に展示させて頂くこととなりました。

体験を「楽しかった」で終わらせてしまうのではなく、そこでの気づきを視覚化して社会資源の中で展示することで、学びを社会や保育の現場に還元したいという、願いが込められた取組でもありました。

また、かこさとしさんの生誕100年にあたり、絵本「よわいかみつよいかたち」実験を、

あそびの中で再現し、子どもたちの姿を追いました。

「主体性」を実験の中でどのように担保するか、プログラム自体も試行錯誤でしたが、「思わず○○したくなる」という環境づくりを目指しました。

子どもの活動の中でICT教育をどのようによりよく展開するかをテーマに、オンラインを活用、高知県の紙漉き職人とつながりました。

体験を通じて疑問に思ったことを率直に質問をしたり、それぞれの視点で積極的に相手とつながろうとする子どもたちの姿が印象的でした。

子どもたちの表情から、「主体性」を感じ取って頂けたら嬉しいです。

子ども、保護者、さまざまな業種で仕事をしている子どもに関心のある大人たちが同じ体験をすることに重きをおいた活動の中で、一人ひとりの子どもの視点を注意深く観察し、問いを立て、予測することは、子ども理解の土台です。

記録に起こし、ドキュメンテーションにすることで、私自身の保育の視点にも改めて気付かされました。

参加者全体にも、相互交流から生まれた気づきも広がり、実りある時間となりました。

2.ドキュメンテーションの制作から展示まで

さて、ドキュメンテーション制作にあたり、もう一つ私が意識したことがありました。

それは、「美しい環境づくり」です。

イタリアでレッジョエミリアに触れた時に、日本の保育との違いを一番感じたことは、「美しさを感じる環境構成」でした。

イタリアでは、紙一枚貼るだけでも、文字のレイアウト1つとっても、見やすく美しいドキュメンテーションが展示されていました。

日本では、保育とデザインは、なぜか遠い存在です。

美しい環境をデザインすることで、子どもたちの「感性」を育てる種まきになることを考えると、「ただ貼ればいい」「見やすければいい」ではない、展示の工夫が必要になります。

そのあたりは、カミスク代表であり、多くの展示やウィンドウディスプレイを手掛けている紙の造形作家でもある西村の専門領域です。

この展示が、保育×デザインの可能性を知って頂ける機会にもなればとも思っています。

また、今回の展示では、保育園でのかじがら探求のドキュメンテーションの展示もしています。

集団保育における、主体性と環境教育のバランスの参考になれば幸いです。

【かじがら探求について】

※かじがらとは、和紙になる部分(皮)を剥いたあとの楮の芯棒のこと

カミスクでは、保育現場や大学、盲学校等と協働した実践研究を重ねています。

こうした探求活動は、子どもの姿から大人のこども理解が深まるだけでなく、これからの未来に必要な環境教育やキャリア教育の土台となると考えています。

次年度に向けて、協力機関を増やしていきながら、環境教育のツールとしての可能性を広げていきます。

3.社会資源とつながることで広がる視点

今回の展示に際し、長年にわたりスウェーデンのアトリエリスタの育成に携わってきたマリア・コズロフスカ氏よりコメントを頂きました。

「本ドキュメンテーションは、子どもたちが「紙づくり」という身近でありながら奥深いテーマに、どのように出会い、探究を深めていったのかを丁寧に描き出しています。植物という「生きている存在」から、私たちの日常にある「紙」へとつながっていくプロセスは、子どもたちの驚きや問いを大切にしながら進められています。子どもたちは、クモの巣など自分たちの既知の経験と結びつけながら考え、比較し、理解を広げていきます。文章だけでなく、写真そのものが語りかけてくる点も、このドキュメンテーションの大きな魅力です。

また、このような取り組みは、学びを社会へと開く大切な一歩です。紙を「作る」ことにとどまらず、紙の性質や可能性を、遊びを通して探究し続ける豊かなプロセスとなっています。

子どもたちと共に歩む、誠実で創造的な実践に、深い敬意を表します。」

【スウェーデンにおけるレッジョ・エミリア・インスピレーションとアトリエリスタ】

スウェーデンでは、レッジョ・エミリア・インスピレーションに基づく幼児教育が広く実践されています。アトリエリスタは、子どもたちの探究や表現、学びを支える重要な役割を担っています。

このコメントの中には、保育へのヒントがたくさんあるように思います。

子どもにとって、いかに「身近なテーマ」が大切か。

子どもにとって、いかに「プロセス」を体験することが重要か。

そういったことを再確認しながら、子どもの環境を整えていくことが重要なのだと思います。

保育者一人ひとりが、身近な社会資源(美術館、散歩コース、自然豊かな空間など)とつながり、活かすことで、豊かな保育の可能性は広がります。

私自身も、保育者が笑顔で楽しく学べるような場づくりを、今後も模索していこうと思っています。